バイクの話でも 3
前回F・ウンチーニのインタビューに出てきた、川崎裕之氏(通称シャケさん、シャケ兄)へのインタビュー記事も同誌に掲載されていた、ヤマハからスズキ、そしてヤマハに復帰した経緯が主題なのだが、開発の具体的なことも語られている。
ごく一部を抜粋。
会社からは「16インチをテストしなければクビだ」と言われた。
16インチには疑問をもっており、承服しかねる指示であったが、れっきとした業務命令だ。
しょうがないかと16インチをテストするも、案の定、竜洋(スズキのテストコース)の高速コーナーで転倒した。
川崎の16インチへの苦手意識は、こうして更に高まったのである。
「そこでヘッドパイプの角度を大幅に変えてトレール量を増やしたフレームを作って見たんです。それなら何とか乗れる。しかも16インチでも18インチでも行けそうでした。またエンジン搭載位置を前にずらしていったら、ドライブシャフト、ピボットシャフト、アクスルシャフトといった三軸の、現代のバイクにも繋がる黄金比的な位置関係が見えてきたんです。」
苦手の16インチだったが、川崎にとっては、まさに「ひょうたんから駒」の経験になった。
こうして完成した81年型RGΓで、川崎自身も世界GPに出場し開幕戦のオーストリアGPでは三位に入ってみせた。
三軸の黄金比とは、ものすごく大雑把に言うとスイングアームの垂れ角のことである。
リアサスのスプリングイニシャルを掛けていくと、スイングアームが立ってくるし、緩めると寝てくる。
この角度によって「アンチスクワット効果」というのが変わってくるのだが、寝すぎても、立ちすぎても、加速時のトラクションが悪くなる。
サービスマニュアルに「必ず体重にあわせてサグだしをして下さい」と書いてあるが、これは単にバネの硬さや車体姿勢だけでなく、川崎氏の言うところの「黄金比」に調整するのが、最大の目的なのだ。
メーカーには、偉い技術者や、目の玉が飛び出るような高価な機器の数々、経験豊富なテストライダーが揃っている、そんなメーカーが長い年月をかけて、導き出したのが推薦セッティングだ。
コースやライダーの違いで多少変えることは、あるだろうが、大幅に変えて性能がアップする可能性は非常に低いだろう。